宮崎家庭裁判所都城支部 昭和43年(少)194号 決定 1968年4月09日
少年 氏名不詳
(男性、中肉、身長一六五糎別紙写真のとおり)
(昭二六・五・二〇生)
主文
少年を中等少年院に送致する。
押収してある自転車一台(昭和四三年押第一二号一)を被害者(氏名不詳)に還付する。
理由
(罪となるべき事実)
少年は、
一 昭和四三年三月○日午前一一時頃鹿児島市内(繁華街の歩道上)において、他人(氏名不詳)所有のツノダ号中古自転車一台(時価約一万円相当)を窃取し、
二 同月△日午前一〇時三〇分頃鹿児島県囎唹郡○○町大字○○××××番地○下○孝方前道路上において、○崎○キ所有の中古原動機付自転車一台(時価約一万五、〇〇〇円相当)を窃取し、
三 公安委員会の運転免許を受けないで、同日同時分頃から同日午前一一時三〇分頃までの間前同所附近より都城市大字○○○町○○○橋南詰附近まで前記原動機付自転車を運転した。
(適条)
一、二の各事実につき刑法二三五条
三の事実につき道路交通法一一八条一項一号
なお、三の事実につき検察官は免許証携帯義務違反(道路交通法九五条一項、一二一条一項一〇号)として送致している(無免許の事実を認めうる証拠が少年の自白以外に存在しないことがその理由であると思われる。)が、免許証の携帯は免許を受けた者にのみ義務づけられるものである。しかるに少年が免許を受けた者であることを認めうる証拠は何もない。したがつて、少年に免許証携帯義務がある旨の証明はないこととなり、少年の行為は同義務違反に該当しない。そして少年保護事件には刑訴法三一九条二項の適用又は準用はなく、自白のみによつて少年の非行事実を認定しても憲法三八条三項に違反しないものと解するのが相当であるところ、少年は逮捕時より審判時まで終始自己が無免許であることを自供しており、その年齢、その他の情況より自供の真実性は充分認められるから、少年の行為は無免許運転に該当するものと認める。
(処遇)
少年は、生年月日以外その身上関係を終始強く黙否しており、氏名・本籍・住居は勿論、国籍すら不明であり、本審判時に年齢が一六歳であることの裏づけもない。しかしながら、その供述態度、他の事実関係において虚偽の供述がない点などから判断して、その生年月日の供述内容を真実と認める。
少年の知能は平均以上(I、Q=一一六)であるが、情意の鈍麻が目立ち、破瓜型精神分裂病の疑がある。そして本件非行に対する罪の意識は薄く、道徳観念は著しく低下していて虞犯性・要保護性は顕著に認められる。
検察官は保護観察相当の意見を付しているが、少年の身もとが不明であるから、在宅保護による更生は期待できない。
宮崎少年鑑別所・当庁家庭裁判所調査官はいずれも保護不適として検察官送致の意見を提出している。なるほど、身許も生育歴も分らないから、社会適応性欠如の原因が不明であつて、少年法に規定する保護処分を行うについては、その矯正教育の過程においてかなりの困難を伴うことが予想される。
しかしながら、本件非行内容はその罪質において必ずしも重くなく、それ自体は少年を刑事処分に付するのに価しないし、身許を黙否することは刑事処分に付するための悪い情状ともいえない。むしろ本件の場合問題は非行自体にあるのではなく少年の反社会的な性格・環境にあるのであつて、その矯正が強く望まれるのである。現在身上関係は不明であるが、将来判明することも期待できないわけではない。少年の健全な育成を期するためには、保護施設における教育が不可欠と信ずる。
よつて、少年を中等少年院に送致することとし、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年法一五条二項、刑事訴訟法三四七条一項にしたがい主文のとおり決定する。
(裁判官 堀口武彦)
別紙写真(編省略)
編注 本件少年について氏名その他身上が判明したむね収容少年院長(福岡少年院長)から昭和四十三年五月七日付書面をもつて宮崎家庭裁判所都城支部裁判官に通報があつた。